オートフォーカス
今回にしても大きな目的は仁美だったのだろう。

より親密になるきっかけを作ろうとしているのだ。

夏は海、秋は果物狩りに紅葉、冬はウィンタースポーツに今回のアルバイト旅行と。

様々な企画をたてて出かけてはいるが、それ以上関係が進むことはなかった。

猛アピールするくせに2人きりになる約束を申込む勇気がない裕二はどこか可愛らしい。

仁美も分かっていながら気付いていないフリをして楽しんでいるようだった。

周りが見ていて不愉快にならないのは、どうやら仁美も裕二のことを気に入っていると分かるからだろう。

仁美は裕二の言葉を待っているのだ。

裕二が勇気を出してデートに誘えばすぐにでも上手くいきそうなのに、それに気付かない本人もまた可愛らしい。

片思いから恋人までの絶妙な距離感を保つ2人は端から見て実に興味深かった。

焦れったい、助けてやりたいけど見守ってやりたい。

後で教室に移動する際に今回の旅行で俺は決めるぞとか宣言されるんだろうな。

それも毎回恒例の話だ。

そんな見え見えの未来を想像して篤希は何気なく視線を外に泳がせた。

< 55 / 244 >

この作品をシェア

pagetop