オートフォーカス
「篤希くんが神戸に行ったことがあるって話をしてたの。」

「彼女と？」

絢子の言葉に浮かんだ疑問がするりと口からこぼれていく。

仁美らしいその反応に苦笑いをしながら篤希は首を横に振った。

「小さい頃の家族旅行でね。」

「ふうん、そうなんだ。」

なんかいいね、そんな言葉を続けて仁美が微笑んだ。

そして何か閃いたような表情をすると、仁美の笑顔が意地悪く変わっていく。

「私、篤希のデートって興味あるな。」

「は？」

白熱していた筈のフィールドから出てきた仁美は頬杖をついて篤希を覗きこんで見上げた。

よく分からない空気を持ち込んだ彼女に絢子は心配そうに名前を呼ぶ。

「仁美？ちょっと…。」

何となく嫌な予感がした篤希は無意識に顎を引いて構えた。

その本能的な防衛反応は正しかったようだ。

「ね、篤希ってデートはどんな所に行くの？」

止まるどころか仁美は何故かテンションを上げて声を弾ませる。

面倒なことになりそうだと頭を抱えたくなった。

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