オートフォーカス
「…マジかよ。」

「マジだよ。」

耳に響く聞き慣れた低い声に篤希は笑った。

落ち着いた篤希とは対称的に雅之のテンションは上がったようだ。

寝転がっていたのを立ち上がったのかと言わんばかりの勢いで突っ込んでくる。

「おいちょっと待て!まさか裕二の旅館にいるんじゃねーだろうな?」

「え?なに…龍泉閣?あんな高いところ泊まれないって…そう、安いビジネスホテル。」

懐かしい場所の名前が出たことによって篤希の表情はさらに穏やかなものになった。

笑ったことによって吐かれた息は白く濁って空気にとけていく。

気温は変わらないのに人を感じるだけで寒さが和らぐなんて不思議だ。

電話の向こうは相変わらず騒がしい。

「まさか女と行ってんのか!?」

「違うよ、お一人様。…いいよ来なくて。」

飽くなき探求心で問い続ける雅之に篤希も笑いが止まらない。

「風邪引く。無理はしない方がいいって。」

なんとか絡もうとする雅之をかわしていくうちに楽しくなってきた篤希は本格的にカメラを休ませることにした。

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