オートフォーカス
辺りを見回し、空いているベンチに腰かける。

一瞬、座ったことで浮かんだ思い出にまた一つ笑みがこぼれた。

ここは雅之たちとの思い出の場所だ。

「そっちこそどうした、雅之。」

いつもの日替り仲間たちはいないのかという篤希の言葉に雅之は顔をしかめた。

今日のガールフレンドはいないのか。

そう聞こえて口を曲げる。

「言ってくれんじゃん。」

してやられたと苦い表情を浮かべながら雅之はハンガーにかけてあるダウンを剥ぎ取った。

電話越しに篤希の笑い声が聞こえる。

「こっちは隼人と会うから篤希もどうかなと思ってかけただけ。んで、真面目な話。神戸で一体何やってる訳?」

1人寂しく、そんな言葉を飲み込んで雅之は電話に集中する。

外は余程寒いのだろう、受話器からは風が吹く音と篤希の呼吸が聞こえてくる。

どのくらい寒いのか気になって雅之は窓の外の様子を伺った。

雪は降っていないようだ。

「決着をつけに来たんだ。」

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