オートフォーカス
到着した早々に駆り出され、館内の構図を把握する前にもうそこら中を走らされている。

吐く息が白いくせに汗が止まらないとか、そんな悠長なことを言ってる時間はない。

そんなことを口にしようものなら「ええから早よせえ!」というお叱りがすぐに聞こえてきそうだ。

ただ体を動かして部活の合宿のような気分で言われたことをこなしていくだけ。

初日というよりはゼロ日の篤希たちにはそれが精一杯だった。

「着いて早々これかよ!お前のばあちゃん激し過ぎるだろ。」

「目が回る…。」

走りながら苦情と抗議を聞き入れ裕二は苦笑いをする。

というよりも、するしかなかった。

「おっかしいな…こんな予定じゃなかったんだけど。」

「早よせえ!お客さん待たす気か!?」

「すんません!」

怒号に反応して返す3人の声が揃う。

声の大きさだけは旅館の人間に負けていなかった。

しかし主に指示をされるのは力仕事ばかり、やっときた若い働き手をここぞとばかりに使いまくる算段らしい。

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