オートフォーカス
彼に案内され、用意されていた男部屋と女部屋にそれぞれ入っていく。

ちゃんとした客室ではないが、短期バイトの部屋にしては立派なものに驚いた。

「改装前は汚かったけどさ。」

そう言いながら裕二は笑う。

一番安い部屋だと言われても疑いたくなるようなものだった。

「すっげえな。」

「あ、料理も来てる。」

その言葉に一同は部屋の中央に注目した。

料理が既に配置されており、それは賄いではなくて立派なお客様用のご馳走だった。

「うっわ…凄いな。」

「これがまた旨いんだって!」

「見りゃ分かる。食わなくても分かるぞ。」

予想外なご馳走に篤希と雅之は驚いて固まっていた。

海と山の幸が贅沢に盛られ、見る者全てを魅了する美しい御膳に涎が出るのは正しい反応だろう。

おそらく別室の絢子と仁美も同じ反応をしている筈だ。

「うっわ…急激に腹が減ってきた。」

「僕も。」

料理を見つめたままその場に荷物を下ろして、まるで吸い寄せられるようにお膳の前に座る。

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