オートフォーカス
見たことがない建築の、おそらく教材に使われそうな本格的な資料集に疑問符が浮かんだ。

「…うちに建築の講義なんてあったっけ?」

「え?」

とっさに聞き返しの声が出たが篤希の手にしている本を見て加奈は理解したように微笑んだ。

「ああ、趣味みたいなもの。いつも持ち歩いちゃうんだ。」

ありがとうと言って手を差し出し本を受け取る。

篤希は出された手の上に本を置くと1つの記憶を呼び起こした。

「…そういえば学祭の時もそう言ってたっけ。」

あれは加奈に初めて会った時のことだ。

篤希の作品を褒めた際に建物の写真が好きなのだと言ったことを篤希は覚えていた。

いくら建物の写真が好きとはいえ、素人の学祭展示レベルの作品を自分の携帯に収めるのかと首を捻ったものだ。

そんなことを思い返していると、白い息を吐きながら加奈は小さく笑った。

「写真ってこれでしょ?」

拾ったばかりの手帳から1枚の写真を取り出して篤希に見せる。

「な…えっ!?」

それはあの時の篤希の作品、加奈は携帯で撮影したものを現像したのだ。

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