緋~隠された恋情
そんな私を驚いた顔で見つめながら

そのことについてお兄ちゃんは何も言わなかった。


私の手を握りながらずっと黙って何か考えていた。


看護師さんの検温が回ってくるまで、

お互いの体温を手のひらで感じてただ押し黙っていた。


「また来るな。」


そう言って私の部屋を出ていったのはそれから1時間後だった。


どのくらい経っただろうか、

「あ。桃。」

テーブルの上に小皿に切り分けられた桃が並んでいる。

お兄ちゃんのむいてくれた桃は

茶色くなっても尚、甘い匂いを放っていた。


私はそれに手を伸ばし、

口に含んだ。

甘味が飛んで苦いばかりだった。


「苦いじゃん。」

まるで私たちみたい。


自分の馬鹿さ加減とお兄ちゃんの鈍感さ

いつまでも平行線な関係。


崩したくないのは、きっと二人共同じなんだろうと思う。


平行に並ぶ二つのレールは、

平穏にどこまでも列車を運ぶ。


どちらかが交わることを望まなければ、

平穏にいつまでも。


「苦くたって、桃は桃よ!」

フォークでさしながら次々とかけらを運ぶ。


苦味に慣れたら桃特有の甘さが

妙に甘ったるくて泣きそうになった。









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