緋~隠された恋情
告白2
ありさ以外の女の人に、心が揺れたのは、
あとにも先にもこの人にだけだった。
強くていつもピンとした背中を見せていた人だったな。
彼女は恋するという感情を唯一教えてくれた人だ。
あれは、ちょうど3年ほど前のことだった…
寂れてしまったアーケードの前に、
バリっとスーツを着て彼女は立っていた。
髪をスッキリ束ねセルフレームのメガネでまるで武装するかのように。
背中をあんまりピンと伸ばしているものだから、
声をかけるのもためらわれて、
何度かそんな姿を見かけたあと、
彼女は、商店街を使った大規模な催しの協力を依頼してきた。
見事成功し、この商店街にも活気が溢れたが、
そういう一過性のものは、長くは続くはずもなく、
また次第に元のような姿に戻っていった。
そんな姿を見かねてか彼女は何度も訪れ、
無償でいろいろな面でサポートをしてくれている。
いわばこの商店街にとって救世主のような存在。
俺は、そんな彼女に想いを寄せ一度玉砕したのだ。
彼女には、大切な人が既にいて、
彼も彼女を大切にしていて、とても割り込む余地などなかったのに。
今思えば、ありさが大学で家から離れていて、
たまらなく人を愛したいと欲しいていた時期だった。
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「お兄ちゃん?」
「うん。好きだったかもな。
だけど……」
ありさの方がもっと好きだ
深い部分でありさを欲している俺。
こんなふうに自らを傷つけてなお、俺の前に存在するお前を。
「ありさ、退院手続きしたら、部屋を探しに行こう。」
「ああ、そうか。お店閉めちゃったんだっけ。」
「うん。とりあえず暫くは今の所に住めるけど、
取り壊しになるからな。
土地の権利はそのままだから、
借地料は入ってくるよ。」
「お兄ちゃん。
あたしがこの間言ったこと…」
「だから、お前が住む場所も、
生活も当面は心配いらない。
仕事もゆっくり見つければいい。」
「お兄ちゃんは…?」
「俺は、どんなふうにしても生きていけるし、
結局店を守ってやれなかったしな。
もう、俺のできることはなくなったな。」