緋~隠された恋情
「家に帰ってもなんにもないし、

 どっかで飯でも食ってくか?」


「え??」

外食なんて、私たちには今まで無縁のことだった。

店の残り物が常に家にあったから。


「店の残り物は、もうないんだね。」


「うん。」


「じゃ、ここの寄らない?」

居酒屋ののれんを指差すと、


お兄ちゃんははにかむように笑うと、

「ありさと、こんなとこ入るなんて

 変な気分だな?」

なんて言うから、

わざと膨れて、

右手を絡めて、


「恋人とデートしてると思えばいいわ。」

と言ってみると、


お兄ちゃんは耳まで赤くして、

「ばかっ」

と言った。


それはどんな意味なの?

上目遣いで見ると、

視線をそらされた。


でも、絡めた手はそのままで、

自分でやったくせに妙に照れくさかった。

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