緋~隠された恋情
まだ早い時間なので、

居酒屋は、二人が初めてのお客のようだった。

「奥へどうぞ。」


私たちは奥の小部屋に案内され、

とりあえず生ビールを2杯注文した。


「いつもカウンターとかなのに、

 こんな個室もあるんだね。」


「よく来るのか?」


「まあ、飲み会とか、仕事の同僚とか?」


「平とか?」


「ううん、植木先生とは、だいたいフランス料理とか…

 どうでもいいでしょそんなの。」


「それでそのあとは、ホテルとか?」


「お兄ちゃん!」


「ごめん。

 俺どうかしてるな。

 こんなふうにいるとなんか錯覚するな。」


「錯覚って?」


「あ、いや、いいんだ。」


「もしかして付き合ってるって?」


「い、いやいやっそう言うんでなく。」


「そう?」


明らかに照れまくるお兄ちゃんは

いつもと違うシュチュエーションに

舞い上がっちゃってるみたい。


「しん。」


私はわざと名前で呼んだ。


「え?」


「『しん』て、呼ぼうかな?こんな時くらい。

 いいんじゃない?

 こんな日くらい、恋人同士みたいに過ごそうよ。」









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