緋~隠された恋情
「~再会は突然に~



「あ…」

まさか、だってこんな画面だし、

でも、似ている気がしてしょうがない。


真ん中辺の窓際に映る男の人が、

お兄ちゃんに見えてしまう。


目をゴシゴシして2度見しようとした時には画面が変わってしまった。


「なあに?誰かいた?」


「よくわからなかった。でも、だとしたら、

 私行かなくちゃ……」


「行くってどこに?」

あたしがそわそわと出る用意をしていると、

お兄さんの水樹さんが、


「まさか、知ってる人?

 あ…新がいたの?」

と、声をかけてきた。昨日この人には、

お兄ちゃんの話をしたんだった。


「わからないです。

 はっきりそうか確かめられなかったし……

 でも今行かなくちゃって

 ちょっとの可能性でも逃したくない。

 どうしても行きたいって思うんです。」


「危ないよ仲野先生。」


「僕が一緒に行こう。

 車出してあげる。


 途中までなら車で行けると思うから

 その先はそれから考えよう。」

「いいんですか?」

「乗り掛かった船だ。

 僕も新に会ってみたいし」


図々しいとは思うけど、

その言葉にすがりたかった。

一人ではたどり着けないかもしれない。


「ありがとうございます。お言葉に甘えます。


 途中までで構いません。」


昨日の合コンでに行くことになったあたりから、

まるでこの場面が準備されていたかのようにさえ思えてくる。


お兄ちゃんとの再会ができるなら

この先に何があっても、

乗り越えてみせる。


-------・…


「気をつけて、無理しないでね。」

水樹先生の声に送り出されて、

バスジャック現場へと向かった。


水樹さんの車に乗りながら

窓を流れる街路樹を見つめていた。


なんだかいつかこんなことがあったな。

ああ、そう


徹平を探しに行ったとき

となりにはお兄ちゃんがいたんだ。


あの時お兄ちゃんはあたしを抱きしめて大丈夫って励ましてくれた。


今度はそのお兄ちゃんを探すのだ。


今度は抱きしめてくれる人はそばにはいない

私はちらりと隣の、

人良さそうな顔の水樹さんを見た。


「すみません、巻き込んでしまって」


「さっきも言ったでしょ?

 僕も会えるなら新に会いたいし。

 なるべくしてなる

 運命的なものを感じるんだ。」


「運命ですか?」


「いや、変な意味ではないよ。

 君が、新の妹だったり、

 あの場所に、植木がいたり…」


「あの、水樹さんはお兄ちゃんとは?」


「好きだったんだ。」


「え?」

失礼にも一瞬ぎょっとしたに態度をとったに違いない。

それを見て、水樹さんはあわてて否定した。


「や、違う違うっ

 変な意味でなく人として憧れていたってこと。

 植木も人望があったんだけど、

 そうでない、人間としての魅力が新にはあったよ。

 友達になりたい誰もがそう思ってた。

 と思う。」


「高校生の時のお兄ちゃん……」

思い出していた。

やさしくて甘い笑顔で、

 はつらつとしていたお兄ちゃん。


まだ両親が生きていて、

私たちが幸せだったあの頃。







 





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