緋～隠された恋情
<Xデー前夜　植木平＞



「じゃあ、ありさは今一人なのか？」


「うん。そう。」



「そんな…だって、」



言葉を続けようとして、言葉を飲み込んだ

そこに水樹がいた。

水樹は、同業者ということもあり、

高校卒業後、付き合いのある、

高校時代の知人だ。

特に仲が良かったわけでもないが、

人のいい性格で、

何かと、からんでくる。

これからも付き合いは続くだろうし、


俺とありさの関係を悟られるのも、聞かれるのもまずい。

しかし人とのつながりというのは、

そう簡単には切れないものなんだと、

改めて感じた。


なぜ今更、また出会ってしまうのだろう。


何かに惹かれるようにこうやって

何度も会ってしまうのか。


新とありさ

俺にとってそれが生きる原動力だったと気づいたのは、

すべてを手放したあとだった。


俺の憎しみに近い執着は、

あの二人に少しでも近づきたい。

できるなら成り代わりたいという

満たされない欲望から吐き出された、

行為だったのかもしれない。


半年が過ぎ、

頭の中からやっと消えかけていた。


今、学園長として、

学園を引き継ぐ準備に入っている。


あとは、年度変わりに公表するのみだ。


ありさのことはもう、

関わるのはやめようと思っていた。

これ以上関わって将来に傷がつくのはまずい。


取引銀行の頭取の娘との婚約ももう整っている。

そうだ、過去はもう振り返らない。

再出発をする。

そう決めたんだ。





< 187 / 238 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop