緋～隠された恋情

＜桜庭華菜里二日前＞

「なんですって？」


お父様の口から信じられない言葉を聞いて、私は平静を保っていられなかった。


「だから、植木先生は、日東銀行の頭取の娘さんと婚約されたんだよ。

　驚いたね。

　我が学園の次期学園長という話も噂だけかと思ったら、本当らしいね。」


「だめよ！私、植木先生と結婚するつもりなのよ。

　パパ、どうにかならないの？

　そんな訳のわからない女に取られるなんて我慢できない！」


「華菜里？

　無理を言ってはいけないよ。

　パパは、教頭って言ってもただの職員だからね。」


「もうっ、パパのことなんか頼らないわ、

　自分で何とかするから」


「何とかするってお前、こればっかりは無理な…」


「うるさいうるさい！

　口だしたらパパだってただで済まさない。

　判ってるでしょ？


　ママのようになりたくないでしょ？」


「どういう意味だ？」


「さあ、ママに聞いたら？」


「ママにって、ママはもうずっと入院して

　…まさかお前！」


「だって煩いんだもの。

　パパだって煩わしかったでしょ？

　ママがいなくなって静かになって良かったでしょ？」


「華菜里…」


パパったら真っ青な顔して、

今まで気がつかなかったの？


パパだって浮気のことで随分責められてて、いなくなってから清々してたじゃない。

そのうえ今じゃ、その浮気相手を住まわせているんじゃない。

家政婦なんて行って騙してるつもりだろうけど、

お見通しなんだから。


ママは3年前に、階段から落ちて植物状態で入院している。


あの頃付き合ってた彼とのことで煩く行ってきたから突き落としてやった。


あの時のことは誰も知らないし、

ママも目覚めない。


死んだりしたら夢見悪かったけど、

とりあえず生きていてくれて良かった。


パパが連れてきた女がお手伝いさんしてくれてるし、

ママなんていても煩いだけ。

いなくなって本当に良かった。