緋~隠された恋情
ふっ……


「懐かしいな。」

「え?」

「俺のコロッケの味見はありさの係だった。」


食の細いやつだったのに、

コロッケだけはどか食いするやつ。


「だって」


「ん、わかってる。」


いつも無口で、多くを語らない父さんが、

唯一、俺に教えてくれたものだ。

俺たち兄妹に残してくれた、

思い出の中にコロッケはあった。


「結局、父さんの味にはならなかったけどね。」


「お兄ちゃんはお兄ちゃんのコロッケでいいんだって、

 作る人の味が、ウチの味だってお父さん言ってた。

 知らないでしょ?

 お父さんお兄ちゃんが失敗したコロッケ全部食べてたんだよ?」


「え?」


「朝、胃薬飲んでたけどね~」

「ええ~~??」


「ふふ、でも、うんとうれしそうだった。」


「そか?」


知ってたさ、

父さんのそういうやさしさが、いつだって染みてて、

だから、本当の家族でないことが悔しかった。

だけど、
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