緋~隠された恋情
「あ、はい。ありがとうございます。」
「今日もう上がり?」
「あ、はい。明日は2限からお願いします。
お先に失礼します。」
仲野ありさ22歳、
私立高校の非常勤講師。
就職戦線離脱を決めて
出身高校の臨時教員に応募しておいた。
幸い理科の教員を募集していたこともあり、
すんなりこの職に就いた。
とはいっても、あくまで1年の契約だ。
1日に2~3時間週4回、
私はこの学校の教壇に立つ。
「お?仲野、上がりか?」
「はい、お先に失礼します。」
ぺこりと挨拶すると、
斜め向かいの席の植木先生は、
「また後でね?」
そう言ってにやりと口角を上げた。
また後で…
私は繰り返してつぶやき
植木先生に視線を戻すと、
端正で冷たいイケ顔で
クスリと笑った。
ふっ
意味深。
私はその言葉の本当の意味を知っている。
二人の暗号だから。
私は笑いも作らずそのまま職員室を出た。