緋~隠された恋情
徹平のアパートの前には奈津美が待っていて、

私の姿を見つけると、手を振って駆け寄っってきた。


「ありさ!大変だったでしょ?」


「奈津美こそ。ごめんねありがとう。」


「ううん。徹平のことはあたしも頼まれてたんだもの。」


久しぶりに会った私たち。


でも、手を取り合って、

喜びを分かち合うでもなく、

ここにはいない人間を思い、

うつむいたまま

会話をした。


奈津美は、現状の話を私にした後、

離れた場所で、私たちを見つめている人

気がついて、


「ね、あの人がありさの?」

聞いてきた。


「うん。お兄ちゃん。」

奈津美はお兄ちゃんに向い


「初めまして、私、興津奈津美(おきつなつみ)と申します。


 ありさと、徹平の共通の友人です。」

と挨拶をする。


兄は小さく微笑むと、


「ありさの兄の、仲野新です。」

と、返した。



奈津美がお兄ちゃんに見とれているのに気がついて、

「ちょっと」

とつつくと、


「ごめん、聞きしに勝る色男だねえ。」


と照れたように笑った。



全くOLキラースマイルなんだから、お兄ちゃんてば。



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