緋~隠された恋情
あの日、
会社の社宅として借り上げられたアパートの部屋に、
引っ越してきた。
引っ越しを手伝ってくれた、友人や、
婚約者のありさを送り出した後、
今日の夕食と明日の朝食を物色しにコンビニへ向かった。
1人暮らしは久しぶりだった。
半年間ありさと暮らしていた。
おれたちは、
体の関係はなくても、
気の合う友人として楽しく暮らした。
そういう関係で許されるなら、
ずっと一緒に暮らしたいとすら思えた。
だからこそ決めた偽りの婚約。
けれど、ありさは、
俺とは違う。
身の上はともかく、普通の女の子なのだ、
女として幸せになってほしい。
きっと、近いうちに本当の別れを告げられると気が来るのだろう。
初めて入るコンビニでも
1人でいることが寂しいと感じてしまう俺は、
ありさの存在に依存していたのだと再認識していた。
いつも買っているメーカーの水と、
ロールパンとチキンサラダ、
缶ビール、つまみ用にさけるチーズをかごに入れた。
レジに一人先客がいたのでその後ろに並んだが、
10円足りなくて困っていた。
俺は財布を開けると、
「どうぞ。」
とコインを差し出した。
これが俺とシオンの出会いだ。
俺としてみれば
早くレジを済ませたかっただけなのだが、
彼はいたく感激して、
どうしても返したいと部屋に招いてくれた。