緋~隠された恋情
ザクッ


目のまえに赤い液体が飛び散った。


刺されたの?


でも、痛みは感じなかった。


私の周りに広がっていく赤い液体。


「ぐっ…」

「うっ」


そう唸ったお兄ちゃんの声

鉄平の声が耳元に聞こえて、


声の方向に視線を落とすと、


重なるように私をかばう二人の姿。



彼の振り下ろしたそれは、

鉄平の腕を切り裂き、

私をかばったお兄ちゃんの腕に刺さっていた。


広がっていくお兄ちゃんと徹平の血液は

まるで緋色の絨毯のように混ざって私を包んでいく


キャアアアァァァァ



私の叫び声がバスルームに響きながら

部屋中に広がっていった。

カッシャン

二人を傷つけた包丁は、

彼の手を離れ床に転がった。


そして彼は、


さっきまでの怒りの色は消え

恐怖で大きく見開いたまま、

ガタガタ震えながらそこにヘタリこでしまったようだ。


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