緋~隠された恋情

その日、お兄ちゃんが目を覚まさなかった。


傷も深く、動脈を傷つけてしまったらしく

もう少し出血が多ければ失血死してしまうところだったのだという。


不足していた、O型の血液は私の輸血によってまかなわれた。


警察の事情聴取や、

いろいろな手続きが済んだけれど、

一向に目を覚ます様子がなくて、

私は途方に暮れてしまった。


コンコン


「はい。」


スライドドアが相手入ってきたのは、

徹平だった。

私をかばった時にできた右肘の傷は、

シャツに隠されていて見えない。


「ありさ。」


「徹平。

 もう大丈夫なの?」


「ああ、傷はたいしたことなかった。

 あの大量の血液のほとんどは、お兄さんのものだったんだ。

 どう?具合。」


「まだ目を覚ましてくれないの。」


徹平は兄の姿を認めてから、

大きくため息をついた。



「巻き込んですまなかった。」


苦しそうに吐き出す言葉。


それを否定するように私は首を振り、


「婚約者様のピンチを救うのは当然でしょ。」

とわざとおどけて答えた。


徹平は、ちょっと笑って、

すぐ真面目な顔になった。




「ありさ


 婚約解消してくれないか。」





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