桜の舞い散る頃に 【短編】
「もう少しだけ待って。今度の誕生日が過ぎたら、合コンでも何でも行くからさ」

私はニッコリと笑いながら、梨沙にお願いした。

そう、もうすぐ大学二年生になる。

今度の4月の日曜日で、二十歳の誕生日を迎える私。

奇しくもあの日と同じ様に、日曜日なのだ。

翔太が来るとは思わなかったし、大体十年も前の口約束なんて本気にする方がどうかしてる。

「…相変わらず強情ね。好きにしたら?」

梨沙はクスッと笑いながら、歩道に目を向けた。

桜並木が川沿いに続いている。
絶景のお花見スポットだと思う。


毎年、桜を見る度に幼かった頃の翔太を思い出していた。

いや、あの日の約束を思い出していたと言った方が良いのかもしれない。

実は、十一歳の夏に親の仕事関係が理由で、遠くに引っ越してしまったのだ。

引っ越し当日、好きなのに引き裂かれる事が悲しくて、泣きながら翔太を見送った事を思い出した。

住所や電話番号を聞く事すら忘れる位、悲しかったんだよね。


それから九年。
私は翔太に一度も会っていない。

だからこんな口約束を守っている私は、梨沙から見たら馬鹿げているんだろうね。

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