桜の舞い散る頃に 【短編】
「あっ、ヤバい!もうこんな時間じゃん」
私も店内に掛かっている時計を見た。
「今日、バイト?」
「うん」
そそくさと帰り支度を始めてる梨沙に合わせて、私も荷物をまとめた。
帰り道、例の公園に寄ってみた。
丘の上に立つあの桜の木は、相変わらず華やかに咲き誇っていた。
春のこの時期に、一瞬だけ迎える晴れ舞台は数週間もすれば、意とも簡単に散ってしまう桜。
儚いのにその一瞬で人々を魅了してしまう力強さに、何だか不思議な安心感を覚える。
――もうすぐ、全てが終わるんだ。
私は桜の木の幹に寄り添いながら、自然の匂いを感じていた。
あの日から十年もの月日が経っているのに、何も変わらないでいる桜の木が羨ましく思えた。
そしてまた私の気持ちも、あの日から何も変わっていない事に気がついたのだ。
翔太が好き。