鬼畜店長
バカップルでいらっしゃる。
「『店長さん、これ受け取ってくれませんか?』カウンターの端にいる女性客のその一言が今回の事件の発端であり、一人のアルバイトと店長の関係が崩壊の一途をたどる原因となったのだった。」
「……は?なんのナレーションなのさそれは」
「ん?あの客の女の人、絶対店長さん狙いだろうなって思って、アテレコしてみた」
バレンタインデイの前日。
なんだかよさげなバーで健気に働くあたしの元に、一時間ほど前にやってきたイケメンくんは、今日も今日とてイケメンだ。
カウンターの端で一人寂しくアルコールを摂取するイケメン。
注文されたアスパラベーコンを渡し、そのまま世間話へと展開してしまったわけだが、木曜日という平日であり、近隣の大学生は定期試験の期間中という今日、なんだかよさげなバーはにぎわっているとは言えないため、世間話もなんのそのだ。
ちなみにあたしもイケメンも明日レポートを提出すればすべて終わりなので、もうほぼ春休みに突入したような状態だ。
そんな今日のような飲み屋が全体的に賑わない日は、ぶっちゃけ暇過ぎてもはや帰ってもいいんじゃないかと思ってしまう。
だって、この世間話を初めて、早20分は経過しているだろう。
その間、注文が入ってもたまたまシフトがかぶったワンコが率先して行ってくれるし、料理は店長がカウンター裏でちょちょいっと作ってしまうから正直やることがない。
「もう帰ってもいいかなぁ」