Momentary


「……さっきの事件 アナタがやったの?」


「俺じゃない」


「見つかったら 間違いなくアナタの仕業だと思われるのよ」


「お陰でアンタに会えた いや アンタに見つかったんだったな」


「そんな冗談言わないで 捕まったかもしれないのよ」



怒りをぶつけるようにボタンに手を掛け、迷うことなく俺の服を

剥ぎ取った。



「生きてるから冗談も言える でなきゃこんなこともできないさ」



女にしては腹筋が発達した腹を撫で、見事にくびれた腰から

ブラックジーンズを引きおろした。

後ろから忍び込んだ指に女が身をよじり、半開きの口が苦しそうに

熱い息を吐き出す。

奥へと進む指に刺激され次第に大きくなる声は、部屋の壁に跳ね返り

俺の耳に心地よく響いた。




初めて会ったのはいつだったか。 

互いに仮面をかぶり、違う自分を演じている場所で俺達は出会った。

見つめ合い、仮面のまま虚像の相手に惹かれていった。

それは、本当の姿をさらしても変わらず、危険な相手だとわかっていながら

会うことをやめなかった。



再会はいつも突然やってきた。

会えば時間を惜しむように相手を求め、どこであろうと抱き合い

存在を体で確かめた。

俺達には互いをいとおしむ時は許されず、性急な求めに応じ、

限りある時間中で相手に自分を与え続けた。


女の手をカウンターにつかせ、突き出した腰を支えながら後ろから丹念に

唇を滑らせる。

唇が足の付け根へと届く頃、女は耐え切れず懇願の声をあげた。



「じらさないで……お願い……」


「イヤだね アンタのその顔を見るのが楽しみなんだ」


「そんなの不公平よ……私だってアナタの顔を見たいのに」


「これで見えるだろう? アンタいい顔してるよ」



女の顔を掴み強引に後へ向かせ、恍惚の顔を確かめ満足した。

唇を合わせながら体をひとつにする。

寂れた店内に、繋がった男と女の息遣いだけが聞こえていた。




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