君が居る世界
「ちなみにそれ、オルゴールも付いてんだぜ?」
「え、そうなの? …あ、ほんとだ! ぜんまいが付いてる!」
ユウナが数回ぜんまいを巻くと、ジングルベルの曲がゆっくりと流れ始めた。
オルゴール独特の優しいメロディーを聞きながら、俺たちはドームの中で雪が降る光景を静かに見守った。
…なんだか、不思議な気分だ。
人気(ひとけ)のない道。
空からは冬の贈り物。
耳に響く、温かいメロディー。
ここにいるのは、俺とユウナの二人だけ――。
そんな状況だと、まるで俺たちがスノードームの中にいるみたいで。
いっそこのまま、ユウナと一緒に居られるこの瞬間に閉じ込められてしまえばいい……。
怖いけど、そんなことを願ってしまう。
……でも、そんなことなどありえない。
きっと、ありえてはいけないのだと思う。
少ししかぜんまいを巻かなかったせいか、メロディーは思いのほか早く止まった。
「…あ、止まっちゃった」
「…止まったな」
再び静けさを取り戻した住宅街。
そこに落ちる声は虚しくて、やっぱりもう少しだけさっきの瞬間が続けばいいなと思えてしまう。