君が居る世界
「…あ、そうだ! リョウスケにいいものあげる!」
「いいもの?」
「そう。だから目を瞑って、ちょっとだけ屈んでくれる?」
「はぁ? そんなの、今くれなくてもいいのに…」
「いいから! 目を瞑って早く屈んでよ!」
俺としてはユウナが風邪を引いてしまう前に(俺が寒さに耐えられるうちに)さっさと帰りたい気分なのに、ユウナが断固として言葉を曲げない。
だから仕方なく、言われた通りの大勢をとった。
「いいよって言うまで、絶対に目を開けちゃダメだからね?」
「分かってるって」
俺が途中で目を開けてしまわないかと窺っているのかして、戸惑いながらカバンのチャックを開ける音が聞こえた。
その音を聞きながら今か今かとオッケーの合図が出るのを待っていると、無防備に晒されていた坊主頭の上に急に何かのぬくもりを感じる。
思わず驚いて合図の前に瞼を上げてしまうと、俺の頭上に手を伸ばしているユウナと真っ直ぐ目が合ってしまった。
「あー! 開けちゃダメって言ったのに!」
「わ、わりぃ。驚いて、つい…」
「もー。…でも、いいや。ちょうど着け終わったところだし」
一瞬だけ頬を膨らませたユウナだけど、伸ばしていた手を引っ込めて俺の頭上を見つめると、満足げに微笑んだ。
その視線につられて、さっきぬくもりを感じた場所に手を伸ばした。