学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……それからしばらくしたある日。
「うわわわわあああ!」
 一郎が手を離すと、小野田の乗ったソリはどんどん下へ滑り落ちていく。
「ワンワンワン!」
 ズシャーッ。
 スピードの出すぎたソリは横転し、投げ出された小野田を思いのほか大きな衝撃が襲う。
「あいててて」
「お~い、大丈夫か?」
「ワンワン」
 仰向けになった小野田の目に飛び込んできたのは、青い空と輝く太陽。そして笑顔の少年の顔、雪と同じ大きな白い巨体の犬だった。
「あはは最高だよ! 面白いよ!」
 小野田も一郎も、単純なソリ遊びを何度も何度も続けた。そんな毎日はまるで一年のように充実していて、一日のように短く感じた。
 ……そんなある日。
「ねえ一郎、今度はあっちの山へ行ってみようよ」
「よし、行くか。ジローついて来い」
「ワンワン」
 ……今日も二人と一匹は雪遊びに出かけたが……普段と違う山へ出かけたのが行けなかった。
 ビヒュウウ!
 夕方になる頃にはあたりは吹雪き始めており、視界が僅かに数メートルになっていた。
「ねえ、ここどこ! 一郎、あんまり離れないでよ!」
 小野田は声を張り上げるが、その声も吹雪のゴウゴウとした音にかき消されて空気に吸収されていく。
「うるさい! 大丈夫だ、こっちに行けばちゃんと帰れるから」
 いつも強気な一郎の声が、この時ばかりは弱弱しいものに聞こえた。
 吹雪は止む気配はなく、さらに風の勢いが増し、辺りはどんどん日が落ちて暗闇が広がっていく。
 見渡す限り白の世界。山の木々があたりに見えるものの、来る時にみた景色とは全てが変わっており、どこを自分たちが通って来たのか、またどこに向かっているのか見当もつかない。今つけた足跡すらも新しい雪によって覆いつくされていく。
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