学園怪談2 ~10年後の再会~
第85話 『小さな約束 前篇』 語り手 石田紫乃

 さて、次の話は紫乃さんの番だ。ここまでの一周の間に色々とあったから紫乃さんの怪談は随分久しぶりに感じる。
「待ちくたびれちゃったよ~。さあさあ、私の次の話も幽霊が登場するんだ。でもね、さっきの大ちゃんの話とは違って形が見える幽霊なんだよ」
 そして紫乃さんは咳払いを一つすると、ゆっくりと話し始めた。
「私が高校を卒業する間際にね、担任だった女の先生から聞いた話なんだ……」

 ……。
「ミクねえ、ママがだ~い好き! パパも好き。3人でママゴトするの。約束だよママ、パパ」
 3歳になったばかりの女の子ミク。彼女は幸せな家庭に生まれ、両親から深い愛情を与えられながら育っていったの。
「ミク、早く大きくなってママと一緒にお料理しましょうね」
「うん。ミク、ママと一緒におりょ~りする。あのね、カレー作るのカレー」
「はは、でも甘いのはやだな~」
「じゃあ、ちゅうからにしてあげるっ」
「あはは、もうそんな言葉も覚えたんだ。可愛いなあこいつめ」
 母親は成長著しい愛娘を抱き上げてほほ笑んだ。
「じゃあ、パパとは、大きくなったら一緒に晩酌に付き合ってくれよ。なあミク」
 晩酌の言葉の意味がわからないのか、首をかしげるミク。
「あはは、ちょっと難しかったか。もう少し大きくなったらわかるよミク」
「パパ、ミクのコップ使わないで」
 娘が母親から解放されると、今度は父親に飛びかかっていく元気なミク。
……どこにでもあるような、しかしこれ以上に幸せな家庭は他にないのではないのだろうか? とも思いたくなる3人の生活は決して長くは続かなかった。
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