学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……。
 ミクが3歳の誕生日を迎えてまだ1週間。ミクの両親の前には小さな体よりもさらに小さな骨壺が置いてあった。中には……ついこの間まで元気だったミクが、日に日に重たくなって輝きを増していたミクが、変わり果てた姿で収められていた。
「……少し休みなよ。お前は全然眠れてないじゃないか」
 パパに手を握られながら、自宅の仏壇の前で憔悴しきったママは、目の前に飾られた一枚の写真……元気いっぱいだったミクの顔をいつまでも遠い視線で見つめていた。
「なんで、なんでミク……」
 ママはパパの言葉が聞こえないかのように、ミクの名をただ繰り返しつづけた。
 ……ミクは事故死した。事故死と言っても犯人はいない。三輪車を乗り回すようになったミクは一人で庭で遊んでいた。ママは洗濯物を干しながらミクを見ていた。そんな、本当に普通の光景の、いったいどこに危険があったと言うのだろう?
 ミクは三輪車で庭先のテラスまで行き、段差を降りようとした。危ないと気がついたママが声をかけるよりも早く、ミクは段差から三輪車ごと転げ落ちた。
「だ、大丈夫? ミク!」
 エ~ン。と元気よく泣き出す……そんな予想した普通の事が起こらなかった。
「ちょっと! ミク! 大丈夫ミク! いやああああ!」
 首がガクンと糸の切れた人形のように反り返り、花と口から赤い血が流れていた……。ミクは打ちどころが悪く、首の骨を折って即死していた。
 この日常で、ありえない程に確率の低い事故。もしも誰かに殺されたり、欠陥商品などによる事故死ならば、犯人の裁判に立ち会ったり、三輪車販売メーカーに安全性についての問題があったのではないかと抗議したりもできた。そんな事をしてもミクが生き返らない事はわかっている。でも、ミクを失ったことの絶望感、悲壮感、そして怒り。これらを向ける矛先にだけでもなったに違いない。
 ミクの死は幸せだった家族を一瞬にして不幸のどん底へと叩き落としたのだった。
 ……悲しみに暮れる家族が葬儀を終えてひと月ほど経った頃。
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