学園怪談2 ~10年後の再会~
 ガタガタ。キーッ。
 ふとした庭先の物音にパパはテラスの方を見た。
「なんだ、三輪車か」
 娘の命を奪った三輪車。本当なら捨ててしまいたいくらいだったが、幼い娘の形見の一つとして残しておいたものだ。風にゆられたのか、壁側から少し離れた位置にあった。
「ミクよ! ミクだわ。あの子が三輪車で遊んでいるのよ!」
 ママは窓際に駆け寄ると、誰も乗っていない三輪車に声をかける。
「よせ! ミクじゃない。もうミクはいないんだから」
 震える声でママを宥めるパパ。
「うう、ううううわあああ」
 思い出したのか、再び涙を流しながらパパに抱きしめられるママ。
そんな二人の悲しみに応えるかのように、三輪車は揺れ続けた。
 ……翌朝、三輪車はどこかに消えていた。昨夜は穏やかな天気で風もほとんどないと知った。
 ……さらに1週間ほどが経った。
 悲しみはあいかわらず深いものの、それでも落着きを取り戻し始めた日常で再び怪奇な現象が起こった。
「あなた! 見て、外に、外に!」
 ママに呼ばれて窓際に寄ったパパは、その眼で驚愕の光景を目の当たりにした。
「っ! ミ、ミク」
 信じられない光景だった。家の門の前に現れた小さな三輪車。そして、その傍らにはミク……1か月以上も前に死んだ愛娘の……変わり果てた姿だった。
「……パ……パ、マ……マ」
 こちらをジッと見つめる目は、虚ろだった。それに鼻や口についた黒い線は、事故の時の血が流れた跡だ。顔は無表情で肌は蒼白。明らかに体温が通っていない肌は昔の可愛らしさを完全に打ち消す程に……不気味だった。
 シャッ!
「あれは……ミクじゃない! ミクじゃない!」
 パパはカーテンを閉めると、ブルブルと震えだした。怖かった。自分の愛した娘のはずだった。でも、目の前に現れた得体のしれない自分の娘の姿とうり二つの存在が、たまらなく怖かった。
 
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