学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……。
 俺の職場は実家からだと通勤が車で1時間以上かかるんだ。だから、当然のように俺は就職と同時に独り暮らし用のアパート物件を探した。
「こちらの物件だと比較的すぐに駅にも出られて便利かと思いますね」
「ふ~ん。あ、この敷金っていうのは?」
 3月も中ごろを迎えた寒い平日。アパートを借りるなどというのは初めての経験だったから、俺は一つ一つを丁寧に地元の不動産屋で質問していた。
「はい、退居される際にかかる部屋の修繕費の事前払金……とでも申し上げますか。後に必ず必要になるものです」
「じゃあ、こっちの礼金は……?」
 と、素人丸出しの会話は続き、それなりに条件に合う物件は何件か見つかったものの。イマイチしっくり来ず、俺は頭を悩ませていた。
 ……すると、店の奥からお茶を持ってきた店主が急に声を潜めて言った。
「……お客さん、幽霊とかって信じます?」
 突然の質問に虚を疲れた俺だったが、店主は声を潜めたまま一枚の物件情報を古びたファイルから取り出した。
「ここなんですがね、敷金、礼金はありません。また日当たりもよく、駅からの距離も徒歩数分です。近くにコンビニもありますし、デパートや市役所なんかも遠くありません。2DK、ペットもOKですし、敷地内に駐車場もついてます」
 それは新座というベッドタウンにおいては魅力的な条件を兼ね備えた物件だった。築15年ということで建物は新しい訳ではないが、鉄骨で丈夫なつくりになっており、騒音や公害とも無縁な場所にあった」
「いいですねこれ! 敷金、礼金も無し? じゃあ家賃がきっと……って、2万3千円!」
 ありえほどの激安家賃だった。この条件なら普通は家賃が7万円に最低でも礼金2か月くらいが相場だ。
「……ええ、まあ」
 テンションの上がる俺とは反対に、元気のない店主。さすがの俺も、このあたりで物件が訳ありなのではと推察した。
「誰か死んだ?」
 ストレートに聞いてみた。やはり新生活を送るスタートに演技の悪い部屋はゴメンだ。
「いえ、そういう訳ではありませんが。どうも……この部屋を借りたお客さんは長く住まないんです。なんでも……出るとかって……」
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