学園怪談2 ~10年後の再会~
第88話 『クマは見ている』 語り手 斎条弘子

 さて、深夜も1時をまわった。夜もすっかりと更けたが怪談はこれからが本番だ。クライマックスに向けて私の期待と不安は大きくなる一方だ。
「では私の番ですね。今度も私が実際に体験した事件の中からお話ししますね」
 大人になっても相変わらず小柄な斎条さんだが、彼女の結婚はいつなのだろう? 紫乃さんも赤羽先生も結婚をし……まあ、赤羽先生はバツ一だが。斎条さんの近況は気になるところだ。
 私は自分の事を棚に上げ、斎条さんの事ばかり考えていた。
「では始めます」

 ……。
 私が中学を卒業し、高校生に入る直前の春休みの事でした。買い物帰りにふと何かの視線を感じた気がして道端で足を止めました。
「あ、何かある」
 道路脇にあるゴミ捨て場で私の気を引いたのは……クマのぬいぐるみでした。
 いつの間にか、私は吸い寄せられるかのようにゴミ捨て場へと近づき、そのぬいぐるみを拾い上げていました。
 私のちょうど顔と同じくらいの大きさのクマ。全体的に茶色でも、はっきり汚いなとわかるくらいに汚れていて、耳が半分千切れています。顔には落書きされたのか十字傷がほっぺたにあり、眼が少し取れかかっていました。また、体の脇の部分からは縫い目がほつれて白い綿が少しはみ出していたのが、ちょっとかわいそうでした。
「かわいそうに。でも、きっとたくさん遊んでもらったんだね。役目を終えて……捨てられちゃったんだ。お疲れ様でした。さようなら」
 私はクマのぬいぐるみを元あった場所に戻しました。
 別に持ち帰るつもりもなかったし、本当は立ち止まるつもりすらもなかったんです。本当にふと、気づいたら拾い上げていたから声をかけてあげた……ただそれだけのつもりだったんです。
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