学園怪談2 ~10年後の再会~
第89話 『未知なる生物』語り手 石田徹

「海よ~、オイラの海よ~~」
 次の話し手である徹さんが往年の名曲を歌いだした。
「ど、どうしたんですか徹さん。まさか、次の話は海に関するお話ですか?」
 私の問いかけに歌が止まった。
「……な、なんでわかったの?」
 ……そりゃあまあ、そのまんまですし。
 そんな私の心の声に気付かない徹さんはネジリ鉢巻きをして話し始めた。
「俺は今の仕事の前に漁師をかじっていたんだ。先輩のコネもあってかなりの高待遇だったからね、これは天職だと思ってたんだよ……あんなことさえなかったらさ」
 徹さんは、どこか沈んだ顔を一瞬すると話し始めた。

 ……。
 男はなんと言っても強く逞しく。そう思った俺のつぎなる就職先は漁師だった。高校の時の先輩で猟師になった人がいて、独立して会社を立ち上げた際に声をかけてくれたのがきっかけだった。
「石田、お前は高校の頃から運動神経が良かったからな。だから漁師になろうぜ。給料は歩合だが大丈夫。最低でも今もらってる分くらいは約束するよ」
 俺はなぜかこの先輩……柴又先輩に気に入られていた。どこかホモっぽい発言をしたり、たまに俺のケツを触ってきたりした高校時代だったけれど、今では髭もじゃで真っ黒な海の男。ホモっぽさは少しも……いや、やっぱり俺のケツを触ったりもしてきたけど、それでも危ない人じゃない。たぶん。
「よし石田。俺の会社はまだ立ち上げたばかりで社員はお前と俺……二人きりだな」
「そ、そっすね。じゃあ漁にいきましょうよ。俺は詳しくないんで色々と教えて下さい」
 俺はケツに注意しながら先輩の前を歩いて表へ向かった。
「ああ、教えてやるとも。手取り足取り、優しくな……」
 
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