学園怪談2 ~10年後の再会~
 先輩は昔から、嘘をつくときに目を逸らしながら鼻の頭を掻く癖を持っていたが、この時の先輩の仕草は間違いなくこれだった。
 しかし、この時の俺は深く追求する事無く自分の作業を続けた。
 ……そして、それから1週間ほど経ったある日。
「お~い石田、ちょっと仮眠をとるからその間はお前も休憩してていいぞ~」
 操舵室で船を停めると、先輩は1時間の休憩タイムを告げた。
「ほ~い、了解でっす」
 そして、俺はそれと同時に竿を持って仕掛けを海に投げ込んだ。
 すっかり仕事に慣れた最近の俺は、この呑気な休憩タイムに一人での海釣りを楽しみにしていた。
 タイ、ヒラメ、カツオ……有名どころはそんなところだが、知らない魚を釣り上げては先輩に報告するのが楽しみだったのだ。
 ……クンクン。
「おっ! 早速来なすったな~。おりゃああ」
 しばらく魚とのファイトを楽しみつつ海面を見やると……今までに見たことのない色をした魚がヒットしていた。
「な、なんだアレは?」
 海面まで来ると急に魚からの手ごたえはなくなり、難なく引上げに成功した。
 ……ドクン! ドクン!
 なぜだか急に脈拍が速くなる気がした。今までの楽しい釣りでは感じなかった……何かドス黒い感情が流れ込んでくるような、そんな複雑な気分だ。
「こ、この魚……この色……まさか、この間先輩が釣っていた?」
 改めてその風貌をしっかりと観察すると、今までに見たどんな魚とも異なる点が複数あった。
 まず、鮮やか過ぎるオレンジの色、そしてやたら長く尖った背びれ。唇が胸ビレ近くまで避けてギラリと並ぶ無数のキバ。目は2つだが、その大きさはどの魚よりも小さくてつまようじの先くらいしかないのではないかという大きさだ。全体の顔のバランスを考えると目以外の部分が明らかに広くて……はっきり言って気味が悪い。
「は、ははは。い、いったい何て魚なんだこりゃ? あっ!」
 釣り上げた時の喜びはどこへやら、今の俺には未知なる生物への恐怖の感情の方が勝っていた。そんな俺に追い打ちをかけるかのように、魚に変化が訪れた。
 ババババババ……。
 小さな破裂音と共に、魚の小さかった目の周りに小さな二つの目と同じ大きさの……無数の目が現れ始めたのだ。
「ななな、何だこりゃあ!」
 ババババババ……。
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