学園怪談2 ~10年後の再会~
 無数の目は増え続ける。その数はざっと何十という数に達しまだ増え続ける。そして、その数が100を超えたのではと思われた時、無数の目は一斉に俺をギロリと見ると、全瞼が閉じた。
「あ、あ、ああああ!」
 俺は魚を手に取ったまま硬直して動けなかった。恐怖と、恐怖と、恐怖。次に一体何が起こるのか想像もつかずに、ただ痙攣しているかのように震え続けるしかなかった。
 その時だった!
「おらあああああ!」
 一瞬の事だった。先輩が……操舵室で昼寝中の筈の先輩がいつの間にか傍に来ていて、目にも止まらぬスピードで俺の手の魚を海に放り投げた。
 その矢先!
 ブシュウウウウウウウ!
 投げられた魚の無数の目が開き、赤い液体を噴水のように噴出しながら海中へと消えていった。
「はあはあはあはあはあはあ」
 俺は甲板に尻もちをついたまま、魚の消えた方から目を逸らすことができなかった。
 もう、海は普段の落ち着きを取り戻しており、先ほどまであった異様な光景はなかった。
「……あれはな、ヒャクメだ」
 先輩の口から俺の疑問の応えが弾き出される。
「ヒャク……メ?」
 俺はまだ立ち上がることができなかった。
「ああ。妖怪に百目っていうのがいるみたいだけどな。体に目が百個ある風貌で、仲間を増やすために人間に近づくんだ。石田……海はな、俺ら人間に自然の恩恵をたくさん与えてくれる。でもな、それと同時に数々の試練も与えてくるものなんだ」
 いつになく、先輩は厳しい顔つきで言った。
 俺は母なる海の大きさ広さに潜む、得体のしれない未知の部分を改めて知った。
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