学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……。
 まず一人目。それはお母さん。実はお母さんは私が子供の時に離婚しててさ、父親の顔もほとんど覚えてなかった私にとって唯一の親なんだもん。当然だよね。
 私がお母さんの前に現れたのは夕方、お母さんはいつものように夕飯の支度をしてた。私は徹と結婚して家を出てたから、お母さんは再婚相手と二人暮らしだった。
 台所の隅に佇んだ私の方を見ても、お母さんが私に気づく事はなかった。
私の体は光の粒子に包まれていて半透明のようになっていた。普通の人には見えないらしい。
『お母さん。紫乃だよ、ねえお母さん』
 もちろん、姿だけでなく声すらもお母さんには伝わらない。
 ……不意に、もう会えなくなるのだという不安が私を支配した。涙がこみ上げてきた。私をずっと褒め、叱り、諭し、そして……愛してくれたお母さん。そのお母さんに言葉を伝える事も出来ない。姿を見てもらう事も出来ない。もうすぐ知るであろう娘の死に、お母さんはどれ程悲しむんだろう。
 ……お母さんに触れたい。もういちど、この歳でなんだけど、抱きしめてもらいたい。あのカサカサだけど、大きな手で頭を撫でてもらいたい。
 私は涙を流した。とめどなく溢れ出る涙にいつからか嗚咽も混じり始めていた。
『うう、お母さん。お母さん。ごめんね、グスッ、ごめんなさい……』
 ……お母さんは、相変わらず晩御飯の味噌汁を作っていた。
 私が両手で顔を覆った時、意識がフラッシュして、目の前の光景が変わった。
 ……
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