学園怪談2 ~10年後の再会~
 次に2人目。今度は……徹だった。
 場所は自宅みたい。徹は週に1度の平日休みを家で満喫していた。
「あはは、バッカでぇ~この芸人」
 いくつかのお菓子の袋と、ジュースの缶が机の上に転がっている。ダイエットをいつも口にしていながらこの状況では、今後の期待も持てないのは一目瞭然だった。
『徹ったら好き勝手やってるなあ』
 私は苦笑いしつつ、いつもと変わらない様子の徹を眺めていた。
 徹はひと通り自由を満喫すると、二人で取り決めている分担した家事を始めた。
「ふんふんふ~ん。あ、あいつめ、使ったら元に戻しとけっていつも言ってんのにまったく……」
 独り言を言ってしまうのも徹の癖だ。
『ほんと、徹と結婚して、大変だったけど……退屈した事なんてなかったな』
 二人で一緒に暮らした2年足らずの部屋。二人が映った幾つかの写真。いっぱい喧嘩もしたし、いっぱい楽しい事もあった。
 すると、ジンワリと涙が込み上げてきた。やっぱり寂しい。母親との別れも寂しかったけど、徹との別れはとにかく辛い。なぜ私は死んでしまったのか。もう後悔の念しかない。涙があふれ出すともう止められず、顔を手で覆って泣いた。
「ほら紫乃、これはお前のだぞ」
 不意に名前を呼ばれ、私は前を見る。そこには大きなホールのケーキがあり、『おめでとうアザラシノ』と書かれたチョコのプレートが刺さっていた。『アザラシノ』とは、徹がたまに呼ぶ私の呼び名だ。アザラシ+シノでアザラシノ。
「明日はあいつの誕生日だし、今日の日付が変わる時まで気づかれないようにしないと」
 徹は私に気づいた訳ではなかった。私に内緒で用意したバースデーの準備でたまたま呟いただけだった。
「紫乃、愛してるぞ。来年には子供も生まれてるだろうし、3人で楽しく明るい家庭を築こうな……って、そんな恥ずかしいこと言えるか~い!」
 一人でツッコミを入れる徹に、私は嗚咽を漏らしていた。
< 268 / 296 >

この作品をシェア

pagetop