学園怪談2 ~10年後の再会~
 ……徹は私に何も言わずに色々とやってくれていた。誕生日の準備もそうだが、掃除嫌いな私のために部屋を片付け、包丁やまな板の漂白除菌、冷蔵庫の整理、ペットの猫のフン始末。どれも他愛のない事ではあっても、私に普段何も言わず、私が気にする間も与えずに一人で黙々とやってくれていた。私はどれだけの感謝を徹にしてなかったんだろう? ありがとうのお礼を言いたくても、それももう叶わない。
『……徹、ありがとう……でも』
 そこで私は言葉が一瞬つまった。そして、こみ上げる涙と感情を一気に吐露した。
『私! 私、死にたくないよお! もっと徹と暮らしたい! 生きたい! もっともっと馬鹿やって、愛しあって、それで、それで……』
 最後は言葉にならなかった。私の目の前が淡い光に満ち始めた。
『徹! いや、まだ行きたくない! 徹~~~!』
 私は手を徹に突き出したけれど、徹には届く事も気づかれる事もなかった。
 そして、私は再び移動した。
「……紫乃?」
 一人、部屋の残った徹の私を呼ぶ声が、光に包まれる私の耳に聞こえた気がした。
 ……。
「いったいどう言う事なんだ? これはイレギュラーじゃないか」
「は、はい! いえ、でも、こんなはずでは……」
 三人目は現れなかった。代わりに目の前に現れたのは閻魔大王と、怒鳴られている別のスタッフだった。
 そして、なんだか申し訳なさそうにこちらを見ている。
「あの……小野田さん。その……大変申し訳ありません」
 閻魔大王が気味の悪い笑顔を浮かべながらすり寄ってきた。
「いったいどうしたんですか? 何か手違いでも?」
 私の質問に、閻魔大王から背中をつつかれたスタッフが喋り出す。
「はい……どうやら小野田さんは……間違いでここに来てしまったみたいで……」
「ま、間違いですって!」
「ひい、す、すいません。すいません。本当にすいません」
 ペコペコと頭を下げるスタッフ。閻魔大王も私の様子を窺ってハラハラしている。
「じゃ、じゃあ。私はどうなっちゃうわけ?」
 私は怒とも悲しみともつかない感情で佇んでいた……。
 …地獄でも役所の中みたいな光景ってあるんだなぁ。

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