夜明けのためのコンチェルト
彼さえ居れば、寂しくない。心細さが消えて、こんなにも安心できる。
「なー加藤」
「何?」
「“最後の晩餐”って英語で言ってみて」
「はい?」
また黙々と参考書の問題を解いていると、早瀬が沈黙を破ってきた。私はペンを休め、彼の方を見る。
「最後の晩餐?」
「そ。イングリッシュプリーズ」
……何ですかいきなり。英語の抜き打ちテストですか。
今までいい感じに働いていた数学脳を英語脳へと切り替え、少し考えてみる。
「えと……“The Last Dinner”とか?」
「あー、まぁそんな感じじゃね?とりあえず欲しかった答えは返ってきた」
「?」
訳がわからず早瀬を見つめていると、彼はシャーペンを手に取って私の参考書のページの端に「Last」という単語を書いた。そしてその回りを線でグルッと囲んでみせる。
「“Last”は“最後”って意味でよく使うけど、“続く”っていう意味もある……ことを今ふと思い出した」
ああ、と私は頷いた。そういえば、英語の長文を読んでいるとたまに見かけることがある。動詞の“last”は“続く、生き続ける”という意味を持つのだ。『last=continue』と本文に書き込んだ記憶もあった。