夜明けのためのコンチェルト
「なんか面白くね?“終わる”のに“続く”ってさ」
「確かに……両極端だよね」
ひとつの単語に複数の意味。英語にはありがちな話だけれど、よくよく考えると面白い。
“終わる”のに“続く”。全く正反対な言葉が、たったひとつの単語の中で共存している。どうして今まで不思議に思わなかったのだろう。
「でも、何となくわかる気がする」
早瀬は、私の参考書に書かれた“Last”の文字を見つめて柔らかく笑った。
「『終わりは新しい始まりだ』ってよく言うじゃん?何かが終わっても、そこで止まらないで必ず別の何かが始まっていく。そういうのが、ずっとずっと続いていく……世界はそうして回ってるんだよな」
続くものは、いつか必ず終わる。でも、何かが終わったらまた新しい何かが始まり、そして続いていく。その大きな繋がりが何度も何度も繰り返される。
だから、“終わる”ことと“続く”ことは同じなんだと思う。――そんな早瀬の言葉に、私は妙に感動してしまった。
「……早瀬、なんか哲学者みたい」
「まあ、たまにはね」
涼しい顔をして指先でペンを回す早瀬が、なんだか憎たらしい。……余裕だな、こいつはいつもいつも。