夜明けのためのコンチェルト
いつだって一枚上手な彼に素直に感心するような、でもほんの少し面白くないような。そんな複雑な心境で、“Last”の文字を眺める。
……“終わる”ものと“続く”もの。表裏一体な二つの事象。
私たちは、どうだろう。私たち、二人は。
「……ずっと続いていけばいいよな」
「え?」
見上げた早瀬の顔は、やっぱり笑っていて。そっと私の髪を撫でる早瀬の手は、変わらず優しくて。
「こんな風に俺たちが隣同士に座ってさ、くだらねーこと言い合ってるみたいな―――こういう毎日が、ずっと続くといいよな」
「……そうだね」
隣に居られたらいい。これからも、高校を卒業しても、ずっと。こんな日々が、続いていけばいい。
けれどそのためには、今の曖昧な関係を打破しないといけない。いつかはこの日々を終わらせないといけない。
矛盾しているだろうか。
「今さ、お前どういう意味で解釈した?」
「え……だから、変わらず一緒に居られたらいいねって」
「ふーん…ま、それでいいや」
「えっ何、他意があるの?」
「いーや別に。…そのうちね」
くしゃ、ともう一度私の髪を掻き撫でると、早瀬は参考書に目を落とした。腑に落ちないまま、私も数学脳に切り替えてペンを握り直す。
早瀬が書いた“Last”の文字は、消さずに残しておくことにした。