それを地獄とは呼べないのだ
*
「うわぁ、すげえ顔。
そんなんじゃ客取れないんじゃないの」
「顔ごときで客足は減らない」
「そうかな」
「身体さえ無事なら突っ込めるだろ」
間違ったことは言っていない。
大体こんなボロい店の遊女に身体以上を求める男の方が馬鹿なんだ。
お相手致せと呼んだこの客もまた、私とこんなやり取りをしてすぐ背を向けさせ、着物を脱がせる。
冷たくてゴツゴツした手のひらが背中に直に触れてきて、一瞬だけ身体を震わせた。
「俺の手が冷たい…だけじゃないね」
奴は指先でなにか背中をなぞると、私の神経にビリビリと細かな刺激が走る。
切れているらしく、指先を舐めているのが音でわかった。
それからガチャガチャと音がして、何をしているのかと私は振り返った。
「……金払って遊女の手当てしてどうするんだ、おまえ」
「んー?
だってほっといたら膿むじゃない」
「そんなことを聞いているんじゃなくて」
手当てしてどうするんだ、あなたになんの利益があるんだと問うているのに、その答えははぐらかされたまま。
どうせ店で遊女の手当てなどしてくれるはずはないから、有り難いっちゃ有り難いんだけれども。
「はい、自分で包帯巻ける?」
「そこまでして巻いてくれないのか」
「だって!背中に!回したら!
胸に手が当たっちゃうじゃない!」
「………」
きゃああと若い娘のノリで顔を真っ赤に染めて騒ぎまくるいい歳こいたお兄さん。
今日で何度か呼ばれて顔を合わせているが、私にただの一度も手を出したことがない。
ただ部屋に置いてある歌留多や双六などの遊び道具に眼をつけ、ルールを教えろだの勝負しろだのと言ってくるだけ。
ヤられるというのは非常に疲れる行為なので、健全に遊んだだけで金が取れるだなんて有り難いことなのだが。
………なにをしにきてるんだ、この男は。
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