それを地獄とは呼べないのだ



「見て」


上になった彼は、わたしの手をとりお互い同じ数ある指を絡ませ、顔の横で何度も組み直した。


「ね、掴めるね」


「そうやね」


ぎゅ、と握られた指。


仕舞いには勝手に頬擦りされ、その顔があんまりにも幸せそうなので、戸惑ってしまう。


それから彼は、人が変わったように晒された地肌に唇をつけ、空いた片手で空だの線を丁寧になぞる。


「あー、やだなぁ、壊したくないなぁ」


「なにがどす?」


「うーん…もう壊れてるっちゃ壊れてるんだけど…、俺綺麗なものはそのまま見ていたい人間なんだよねぇ」


「………」



そういいながらも、わたしの身体にはどんどん紅い花が開いていく。


咲かせるようにして開くそれは、他の客との行為では感じたことのない幸福に満たされていて、余計に辛くなる。



「………抱くんどすか?」


「そうなるね」



少し残念な気持ちがした。


このまま帰って、二度とこんなところへは近付いて欲しくなかったのに。


それでも、惚れた相手に触られて幸せと思ってしまうあたり、わたしは確かに女らしい。



「ちょっと残念だけどね。
まぁ、でも、どうせ壊れてしまうなら自分の手でやってしまった方が楽だよね」



そういって、どこにあったのか銀色に光る鋏を持ち上げて。




「このまま、君は俺の物」







しゃ、きん。



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