愛を知る日まで
「あらあら、すみませんねぇ。」
「気にすんな。ほら荷物、網棚乗せてやるよ。」
「あらまあ、ありがとう。」
「降りるとき言えよ、下ろしてやるから。」
俺がそう言って網棚に鞄を乗せてやると婆さんはしわくちゃな目元を細めながら小さく頭を下げた。
そんな俺らのやりとりをチラチラ横目で見てる奴等が解せないが、気にしてもしょうがねえ。
「どこかお出掛けですか?」
婆さんが俺を見上げながら話し掛けてきた。
「ああ、○○って所のお祭りに行くんだ。」
「まあまあ、○○のお祭り?」
「なんだよ、婆さん知ってんのか?」
婆さんの意外な答えに、俺は吊り輪に掴まったまま身を乗り出して聞いた。
「ええ、ええ、昔ね○○の隣町に住んでいた事があってねえ。
あそこのお祭りは、豊作だけじゃなく人との縁を醸す事で地元じゃ有名なんですよ。」
「…へー…」
「そんなご立派なもんじゃ無いけれどね。
御近所さんと仲良くなったりね、良い縁談に恵まれたり、町の人はみんな感謝してお社さんを祭るんですよ。」
ニコニコとそう話す婆さんの説明は、今日の楽しみをひとしおにする情報だった。
「じゃあ縁結びとかも?」
「ええ、ええ、きっと醸してくれますよ。」
それを聞いた俺の口角がニーッと上がる。