愛を知る日まで
「?それは?」
冷やし中華の下拵えが済むと、今度は牛蒡を取り出して刻み始めた真陽に聞いた。
「冷やし中華だけじゃ寂しいからきんぴらも作ろうと思って。」
「きんぴら?きんぴらごぼう?」
「そう。」
器用に牛蒡を細く刻む手元を見ながら俺は目をパチクリさせた。
「なんできんぴら?どっちかって言うときんぴらって白い飯のおかずって感じだけど。」
不思議そうに聞いた俺に、真陽はまな板から目を離さないまま可笑しそうにクスクス笑った。
「ふふ、やっぱり変だよね。でもうちの実家って何故か冷やし中華の時は必ずきんぴらが一緒に出てきたの。だからずっとそれが普通なんだって私思ってたんだ。」
思わぬ真陽のエピソードに、俺も笑い出す。
「あはは、なんだそれ。」
その声に、更に楽しそうに顔を綻ばせた彼女が続けた話は
「ね、可笑しいよね。最初に綜司さんに作った時もビックリされちゃって…」
迂闊な禁句だった。