愛を知る日まで
自分の口から出た迂闊な名前に一瞬で顔色の変わった真陽を見て
初めて聞いたその名前が誰なのか、俺にも理解できた。
“綜司さん”
その名前、その呼び方、その口調。
たったそれだけで、彼女と婚約者の生活とか信頼とかそういうものが見えた気がして。
あれほど弾んでいた俺の胸は一瞬で静まり冷えていった。
そして代わりに
色々な感情が渦巻いた胸は熱くたぎり、怒りにも似た独占欲が湧き出るのが分かった。
俺は、気まずそうに俯きながら野菜を刻み続ける真陽の手をいきなり強く掴んだ。
「!?危ないよ柊く…ん…?」
驚いて俺を見た真陽の表情が戸惑いに変わっていく。
「飯は後でいい。来て、真陽。」
包丁を離させた手を掴んで、俺は真陽を部屋まで連れていくとそのままフローリングの床に押し倒した。