愛を知る日まで
女を知った。
だからと云って俺の退屈な日々が変わるワケじゃない。
ある日、俺は嫌いな教師の授業をサボって屋上で寝ていた。
その日はすごくいい天気で、空には雲のひとつも無かったのをよく覚えている。
ふと瞼を開くと真っ青な空が瞳に映って、その青が急に心の中に飛び込んできた気がした。
ひたすらに続く何も無い、青。
--そっか。俺って何も無いんだ。
それは唐突に、でもとても自然に浮かんだ気持ちだった。
親も家族も友達も
夢も希望も欲しい物も
好きな事も楽しい事も
自信も未来も
なんにも、無い人間なんだな。
『お前は一生笑わねえな。』
昔、彰が言った一言が浮かんだ。
そうか、そうだな。
俺、笑うってよく分かんねえもん。
どういう時に笑いたくなるかさっぱり分かんねえ。
なんにも、なーんにも持ってない俺は
きっと一生笑うことも無いんだろうな。
ゴロリと寝返りをうって、青空から目を背けた時、頬に冷たいものが伝った気がした。
世界は俺を拒み続け何も与えてくれないと云うのに
「…どうして俺、こんなに生きていたいって思うんだろう」
屋上のアスファルトに落ちて滲んだ雫は、きっと退屈な欠伸のせいだと、俺は自分に言い聞かせた。