愛を知る日まで
「前はさ、柊が近付いたり離れたりしてよく分からなかったから、猫みたいだなって思ったコトある。」
…ふーん。
そんな風に思ってたんだ。
真陽の言葉に俺は感情の籠っていない感慨と云う妙な気分で相槌を打った。
「でもね、柊のコト深く知ってからは猫じゃない、犬だなって。」
「犬?」
その言葉に今度は俺が目を丸くする。
「そ。尻尾フリフリして飛び付いてくるワンコ。」
珍しく悪戯な笑顔を浮かべて真陽はカップを置くと、俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でた。
“ワンコ扱いすんなよ”
…って俺が拗ねると思ってるんだろうな。
俺はそんな真陽の予想を裏切って真面目な顔を向けた。
「犬とも言われたよ。…喧嘩してボコしてやったヤツにお前は狂犬だって。」
…それを聞いた真陽はやっぱり驚いたようなきょとんとした顔をした。
その表情に自分の胸がひとつドキリと高鳴る。
俺はまだ真陽に、自分の人生が半ば暴力で切り開かれたものだと言うことを伝えてなかったから。
狂犬と呼ばれるほど牙を剥いてきた俺は、優しい彼女の目にはどう映るんだろう。
俺が密かに怯えていると、真陽は俺の頭をそのあったかい胸にぎゅっと抱えて
「私にはワンコだよ。」
頬擦りするようにグリグリと撫でた。