愛を知る日まで
「…ビビらせんじゃねえよ。ガキはさっさと寝ろよ。」
冷たく濡れたタオルを絞りながら言うとそのガキは赤く腫れた目をゴシゴシ擦りながら頷いた。
染みるほど冷えたタオルで目許の痣を押さえながら立ち去ろうとしたがガキはなかなかそこを動こうとしない。
「おら、電気消すぞ。」
なげやりにそう声をかけるとガキは今度は首を横に振りながらヒックヒックと泣き出した。
それを見た俺はうんざりと溜め息をつく。
長年施設育ちの俺にとっちゃ、こんなのは見飽きた光景だ。
大方、まだここに来て日が浅いんだろう。
昼間はまだ平気でも夜になるとホームシックやら不安やら淋しいやらで眠れないのも泣きたくなるのもみんなお決まりのパターンだ。
部屋で静かに枕を濡らすヤツもいれば、人目につかないようにこうしてコッソリ泣くヤツもいる。
コイツもなんかしらの理由でルームメートに泣いてるのを見られたくないんだろう。
いや、別にルームメートだけじゃなく誰にも知られたくなかったのかもしれないが。だとしたら悪いコトしたな。
「見なかったコトにしてやるから一人で泣いてろ。後で電気消せよ。」
わざわざ気を使って立ち去ろうとしてやったのに、そのガキは俺の服の裾をガッチリ掴みやがった。