愛を知る日まで
他人にも自分にもこんな世界にも
そろそろ愛想が尽きてきた頃に、その道は拓かれた。
高校3年生の進路相談。
殆どの生徒が進学するこの学校で、俺は卒業後の進路を異例の『フリーター』と書いて提出した。
当然何回も進路指導の呼び出しを食らったし「せめて就職を」と説教されたけど、俺の気持ちは変わらなかった。
面倒臭いんだ、なにもかも。
進学をして、就職をして、何が獲られる?努力をして高みに立ったら俺の過去が、生い立ちが変わるとでも言うのか?
孤独と暴力に育てられた俺に、今さら何が与えられるって言うんだ。
何もいらない。何も欲しくない。だからもう、ほっといてくれ…。
再三の進路指導にも耳を貸さず、施設の職員にもここを出た後の俺の生活を心配させて、俺はこの場から解放される日をひたすら待った。
そして、間もなく俺が18歳になろうと云う12月。
「…貴方、H養護施設に居た子よね?」
施設の客間の前で、初老の女性が話し掛けてきた。
優しい声で紡がれた忌まわしい過去。
驚いてその人の顔を見やると、そこにはとても柔らかくて穏やかな笑顔があった。
「やっぱりそうよね。ええと、ええと…そう、柊くん、だったかしら?」
「…誰だよ、あんた。」
好ましくない俺の過去の話をするそのヒトに、俺は警戒を強めて眉を潜める。
「覚えてないかしら?昔、H養護施設をよく夏祭りやクリスマス会に招待した『ぬくもりの手』ってNPOなんだけど。」
俺は警戒を弛めないまま記憶を探ってみた。
---…ぬくもりの手…。なんとなく覚えている。
年に数回おせっかいなおばちゃん達が祭り事に招待してくれて、喜んでたガキもいたっけな、そう言えば。
当然その頃の俺は荒れに荒れていてそんなものが楽しいと思った事は一度も無いけど。
「私、そこの代表をやっていて貴方にも何回か会った事があるのよ。ああ、まさかまた会えるなんて嬉しいわ。」
ニコニコと笑ったその人はポケットから出した名刺を俺に握らせた。
---NPO法人 ぬくもりの手 代表
---児童養護施設支援所 ぬくもり園 園長
---雉 綾子
それが、俺の運命を大きく変える
雉さんとの再開だった。